CASE3 大阪府/岸和田市(詳細版)


在宅医療先駆者の活動が医師会や市に広がり、
自然に連携体制が整った

岸和田市のここがすごい!

○発端は在宅医が始めた研究会、その後、様々な行政の事業を活用して発展

「岸和田在宅ケア研究会」(1998-20068年間にのべ1400人余りが参加。知識を共有しながら顔の見える関係を構築し、その後の研究会や会議につないだ。

○医師会が在宅医療の実態調査を毎年実施

市内の在宅医療活動について独自の調査を重ね体制づくりなどに活かしている

○在宅医同士が互いを支援し合う仕組みがある

在宅医療に取り組む医師グループ「岸和田在宅ケア24」が機能しているため、参加在宅医は学会参加や余暇活動が無理なくできている


○発端は在宅医が始めた研究会、その後、様々な行政の事業を活用して発展

岸和田市内で在宅医療を目指して開業した医師が、仲間の医師たちや関係職種に声をかけて1998年に「岸和田在宅ケア研究会」を立ち上げました。堺市など隣接する地域にも広く参加者を募り参加者は増えていきました。2年目以降は岸和田市医師会が主催することとなり、さらに多職種の参加を得て発展していきました。こうして研究会は2006年までに30回開催され参加した多職種は616名(のべ1400人)。この会を通じて在宅医療・ケアの知識を共有するとともに、いわゆる顔の見える関係が出来上がりました。「岸和田在宅ケア研究会」は2006年に一旦終了し、翌年からは「岸和田緩和ケアネットワーク研究会」が発足しました。現地域がん診療連携拠点病院の看護師なども加わり、年1回の講演会と定例の研究会を実施。講演会には病院の緩和ケア医と在宅緩和ケアに取り組む開業医を交互に招いています。

認知症事業を機に市と医師会が連携

岸和田市医師会と岸和田市との協働は、2009年度に大阪府福祉部の「認知症地域資源連携体制づくりモデル事業」に手を挙げたのをきっかけに本格化しました。このモデル事業によって、医師会役員、地域包括支援センター職員、岸和田市の担当者が年に2、3回の連携会議を開くようになりました。同会議に在宅医が入るようになったのが2011年。2013年には岸和田市医師会が大阪府健康医療部の「在宅医療推進モデル事業」を受託したのを機に活動内容が在宅医療中心にシフト。連携会議の開催頻度も月1回(第4木曜日18:00〜)に増えました。



写真1◆20万人弱の市民が暮らす岸和田市の本庁舎。同市は以前から市内を6エリアに分け施設整備などを行っており、地域包括ケアシステムにおいてもこの6エリアを日常生活単位とみなしている


在宅医療介護連携拠点会議

連携会議では2013年以降、より幅広いテーマを扱うようになり、メンバーも増えて20183月現在、35名の多職種で構成されています。会議の名称は「在宅医療介護連携拠点会議」となり、図1に示した7つのWG(ワーキンググループ)を組織して活動しています。「暮らしの安心プロジェクト」とは、診療所や薬局で独居高齢者の同意のもとに登録し、予約受診日に来院がなかったときに連絡を取り、連絡が取れないときには地域包括支援センター経由で救急搬送の有無を問い合わせ、不明なときは関係機関が連携して安否確認訪問を行う独自の見守りシステムのこと。登録者数は2018年3月現在86名です。

 図1◆「在宅医療介護連携拠点会議」内の7つのWG

多職種連携WG
地域包括支援センター、ケアマネジャー支援WG
住民啓発WG
医療介護連携ICT WG
在宅医療介護連携推進協議会・暮らしの安心プロジェクトWG
病院・地域連携WG
まちづくりWG

地域の医療・介護情報サイトを運営

2013年には、情報共有のためのポータルサイト「アットホームきしわだ(写真2)が立ち上がっています。岸和田市医師会が岸和田市、保健所ほか関連団体、協会などの協力を得て運営しているもので、誰もが手軽に医療・介護施設やサービスの情報を取得できます。さらに2014年には医療介護連携クラウド型ICTカナミックネットワーク」の運用も開始。こうしたICTの導入、運営費用は岸和田市医師会が拠出しています。


写真2◆「アットホームきしわだ」のホームページ




医師会が在宅医療の実態調査を毎年実施

岸和田市医師会では10年以上にわたり毎年、会員医療機関を対象に「在宅ケア・ターミナルケアアンケート」を実施しています。調査項目は在宅医療対象患者の居住先とその比率(自宅か居住系施設か)、訪問患者数、看取り患者数、在宅緩和ケアの実施施設、在宅医療を行っている施設の施設基準の分布、居住系施設の種類別数など。こうして地域の現状や変化をできるだけ正確に把握したうえで必要なサービスを整える努力を重ねています。

在宅死の詳細を分析し体制づくりに活かす

国のデータを地域の現状分析に活用することもあります。たとえば在宅死の比率。一般に公表されているデータでは在宅看取りも検案死(異状死)も一緒に数えられているため看取りの実態把握という意味では不十分です。そこで保健所の協力を得て法務局に死亡診断書の目的外使用を申請し、診断書と検案書の比率を割り出しました。こうしたデータと、緩和ケア病棟の有無など医療機関の機能に関する調査結果を合わせて分析。検案を減らし、希望に沿った在宅看取りを実践する体制づくりに活かしています。

在宅医同士が互いを支援し合う仕組みがある

岸和田市では、在宅医療に取り組む開業医などが、お互いの不在時の患者の管理などをフォローし合う「岸和田在宅ケア24」が2004年から機能しています。現在の機能強化型在宅療養支援診療所のモデルになったといわれ、在宅患者を継続的に診ていても安心して学会参加や余暇活動ができるようになるなど在宅医の大きな支えになっています。「岸和田在宅ケア24」のウェブサイトには、各診療所の新規在宅患者の受け入れ可否状況を伝えるページなどもあり、地域の病院の地域連携室スタッフなどがよく利用しています。


写真3◆「岸和田在宅ケア24」のホームページ




POINT在宅医と医師会が組むとメリットが大きい

ここで紹介した取り組みの多くは、冒頭で触れた「岸和田在宅ケア研究会」の発足を呼びかけた在宅医のアイデアが基になっています。この医師は1996年に外来診療と在宅医療の“ミックス型診療所”を開業。このとき医師会に入会し、その後10数年理事を務め、現在は副会長(在宅ケア・地域包括ケア担当)になっています。これまで一貫して地域の在宅医療の充実のために努めてきましたが、こうした立場の変化と時代の変化が相まって、現在は以前より活動しやすくなったといいます。在宅医療に熱心な医師が医師会活動に積極的に取り組んだことが、結果的に岸和田市の在宅医療推進につながったといえます。





関係機関の役割

医師会在宅ケア・地域包括ケア担当副会長を中心に、在宅医療・介護に関連するさまざまな活動について地域全体をリード。連携のためのポータルサイト運営費なども拠出しています。
地域の先進事例や医師会の活動に追随するかたちで事業を推進しています。現場の医師のアイデアを活かして在宅患者の支援助成金を制度化したこともあります。
保健所現在では主に情報提供を行っています。

その他の活動情報

●在宅緩和ケアに熱心ないくつかの診療所が院内訪問看護を実践しています。その半面、訪問看護ステーションによる在宅緩和ケアはまだあまり充実していないのが現状です。
●介護保険サービスが利用できない若年の末期がん患者などに福祉用具貸与や訪問入浴サービスを利用してもらえるよう市独自の「在宅緩和ケア支援助成金」制度が設けられています。
大阪府在宅歯科医療連携体制推進事業を活用した「在宅歯科ケアステーション」が2016年に岸和田市立保健センターの中にある岸和田市歯科医師会内にオープンしました。

地域DATA(岸和田市) 

面積:72.68k㎡
人口(2015年国勢調査):194,911人
高齢化率(2015年、65歳以上):25.90%
一般診療所数(2017年10月現在):142
病院数(2017年10月現在):17

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