CASE1 鹿児島県/奄美市・大島郡(詳細版)

市町村・医師会・保健所が協働
“三位一体”で進める広域連携

奄美市・大島郡のここがすごい!

○地域ビジョン「Ageing in Place」の共有

活動を始める前から市町村、医師会、保健所が「Ageing in Place:ここで暮らし続けたい」という想いを共有

○6市町村、郡医師会、保健所がつながっている

複数の自治体を保健所がまとめ、後方支援。皆で話し合いながら地域づくりに取り組む


地域ビジョンAgeing in Placeの共有

奄美市・大島郡は鹿児島県に属する離島群(図1)で、他地域に先駆けて高齢化と人口減少が進んでいるものの、医療・介護の十分な確保は難しい状況です。それでも「ここで暮らし続けたい」という想いは住民皆同じ。だからこれをビジョン(目的)としました。

Ageing in Place

今だけにとらわれず、「この先ずっと地域で暮らし続けるため」に何が必要なのか? を市町村、医師会、保健所が一緒になって考え、活動を展開しています。「Ageing in Place」は、現在の取り組みに先だって進められた「在宅医療推進地域支援事業」(2013.102016.3)で大島郡医師会が打ち出し、行政、各種職能団体、介護関連団体などと共有した理念です。それを地域の目標としてあらためて掲げ、折に触れて確認し合っているのです。

図1◆奄美群島の概要

1 公益社団法人大島郡医師会(2016).在宅医療推進地域支援事業成果報告資料,P2 より引用



6市町村、郡医師会、保健所がつながっている

医療・介護資源に乏しい奄美群島では、近隣市町村が連携して、安心して暮らし続けることのできる地域づくりを進める必要があります。

広域連携の必要性

2016年4月、「在宅医療推進地域支援事業」から「在宅医療・介護連携推進事業」に移行した当初、事業主体である各市町村間には、事業や広域連携に対する認識に温度差が見られました。そこで医師会と保健所が問題意識の共有、情報提供などに努め、市町村の理解と協調を促しました。

コーディネーターと保健師の活躍

広域連携推進に際しては、モデル事業を機に大島郡医師会病院(写真1)内に設置された「在宅医療連携支援センター」のコーディネーターが活躍。また、取り組みの遅れがちな自治体には保健師が出向いて相談に乗るなど、保健所による支援が大きな力になりました。病院長、医師会長、保健所長はともに医師会員で、こうした現場スタッフの活動をよく理解し、評価・支援しています。

写真2 地域医療の一翼を担う大島郡医師会病院。介護老人保健施設「虹の丘」も併設されている


話し合いと合意形成

約1年かけた話し合いの末、名瀬保健所管内の6市町村(図1の白色で示した地域)が合同で、「在宅医療・介護連携推進事業」の「(オ)在宅医療・介護連携に関する相談支援」を中心に(ア)~(ク)のすべての事業項目について、市町村の実情に応じて大島郡医師会に委託契約することで合意形成がなされました。

POINT連携のベースとなった共通の考え方

地理的にも、文化的にも、組織的にも異なる6自治体が共同で、1つの医師会と契約締結することはとても大変なことですが、ビジョンの共有と話し合いによる歩み寄りが、さまざまなハードルを超える力になりました。そのベースには、大島郡医師会が提唱する関係者との連携のための心得「ABCDサイクル+E」(図2)があります。また、鹿児島県の積極的な姿勢もあって、保健所が国の推奨する役割を忠実に果たしていることも推進力になっています。


図2◆大島郡医師会が提唱する連携のための心得「ABCDサイクル+E




〇目的を同じくする仲間が繰り返し会って話し合えば何かが生まれる


A(Aim:目的、Ageing in Place)を共有した上で、
B(Ba:場、Bond:結びつき)を設定し、
C (Communication:コミュニケーション、Continuous dialogue:継続的な対話)を大事にすれば
D(Direction:方向性、Dougu:道具、Deed:行動)につながる。
+ E(Engine:原動力、Environment:環境、Empower & Encourage:育て、勇気づける)は、このサイクルを継続・進化させていくために重要な役割を担う。

2 公益社団法人大島郡医師会(2016).在宅医療推進地域支援事業成果報告資料より抜粋


合同の委員会とチームが活動

6市町村(9包括支援センター)、大島郡医師会、名瀬保健所から成る「事業運営委員会」が立ち上がったのは2017年3月。さらにその下部組織として4つの「事業推進チーム」が3〜4包括の合同で組織され、現在も定期的に集まり一緒に地域づくりを進めています(図3、写真2)。ここにも「ABCDサイクル+E」の考え方が息づいています。

図3◆在宅医療・介護連携(広域分)組織図

写真2 隔月で開催されている「事業運営委員会」の様子。基本的に6つの包括、医師会、保健所から2、3名ずつ出席し、議題に沿って3時間話し合う


POINTコーディネーターの働き変遷

201310 

3名のコーディネーター(社会福祉士(常勤)、ケアマネジャーの資格を持つ看護師(非常勤)、病院医事課職員(常勤))を配置して、行政(市町村・県)や各職能団体等の関係者とあらゆる機会をとらえてコミュニケーションを図るよう努める。 

20146

病院医事課職員の代わりとして、情報・通信系の会社からSE(システムエンジニア)をコーディネーター(出向社員)として受け入れ、ICTを活用した情報共有の仕組み作りに取り組む。

20164

在宅医療推進地域支援事業の終了とともに、コーディネーターは常勤の社会福祉士1名体制となり、行政(市町村・県)等との新たな関係構築の方法を模索。

20174

在宅医療連携支援センターに2名の歯科衛生士(非常勤)をコーディネーターとして配置し、在宅医療・介護連携に関する相談支援体制の強化を図る。



関係機関の役割

医師会各自治体に公平で均等な相談などの対応。市町村事業推進のために内部の人材を配置し、予算も拠出しています。
市町村すべての市町村が直営の地域包括支援センターを運営。その連絡会(2007年〜)などを通じ元々密な連携関係にあります。またある自治体の活動を周辺自治体が参考にするなどお互いのノウハウが生かし合える関係性があります。
保健所保健師が中心に関わり、距離的に離れている各市町村に公平に情報提供するなど後方支援の役割を果たしています。市町村の足並みを揃えるべく、適宜介入しています。

その他の活動情報

●大島郡医師会は2016年4月、情報共有サイト「つむぐネット」の運用を開始。
奄美大島南部町村(瀬戸内町・宇検村)では2017年4月、全国に先駆けて地域医療連携推進法人「アンマ」を設立。
●大島郡医師会はリハビリテーションに力を入れており、介護老人保健施設「虹の丘」の通リハでは買い物など利用者の生活に近い場面を思い出せるような、施設内活動を企画運営しています。
大島郡医師会病院では、看取りや夜間対応など在宅医療の後方支援にも力を入れています。


地域DATA(奄美保健医療圏北部の6市町村)

面積2016101日国土地理院資料)877.89 k
人口2017101日現在鹿児島県人口移動調査):66,880
高齢化率(同上、65歳以上):32.7
一般診療所数201710月現在):70
病院数201710月現在)10

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