CASE11 東京都/調布市(詳細版)

独自の在宅医紹介システムを構築
市民も巻き込み連携事業を精力的に推進

調布市のここがすごい! 

○専門職や患者家族などに在宅医を紹介する独自の仕組みがある

調布市医師会内に在宅医療相談室を設置し、在宅医を必要とする人に、登録医の手挙げ制で在宅医を紹介する仕組みを構築

医師と歯科医師がペアで摂食・嚥下機能支援

在宅医療相談室の情報をもとに、在宅で摂食・嚥下機能検査を実施。都の「摂食・嚥下機能支援推進事業における評価医養成研修」を修了した医師、歯科医師がペアで担当 

◯医師会の実績をベースに在宅医療・介護連携事業を推進

調布市在宅療養推進会議は、市民も含む在宅医療相談室の運営協議会が母体。その実績と信頼関係をベースに取り組みを推進


専門職や患者家族などに在宅医を紹介する独自の仕組みがある

東京都調布市は都心から約20kmの場所にあり、東側は東京都区部と、南側は多摩川をはさんで神奈川県と接しています。その利便性は大きな魅力で、近年も若年層の流入が活発。一方で、高齢化も確実に進んでおり、医療・介護の連携は大きな課題と認識されています。

きっかけはケアマネタイム

市内で先代の時代から在宅医療に取り組む診療所の院長(現調布市医師会副会長)は、早くからこの課題を注視しており、調布市医師会在宅医療担当理事になったのを機に行動を開始しました。最初に行ったのはケアマネタイムの普及で、2005年から運用しています。活動にあたっては医療・福祉・介護にかかわる多職種を集めて協議。医師会が多職種による会議体を組織したのはこれが初めてで、多職種連携の大きなきっかけになりました。

医師会立の在宅医療相談室を開設

多職種連携が少しずつ進んでも、現場では、在宅療養中の人が入院を機にそれまでとは違う在宅医に紹介されてしまうケースが目立ちました。そこで何かしらの調整機構が必要と考え2010年に調布市医師会が創設したのが、「在宅医の紹介」(図1)と「在宅医療に関する相談対応」を主たる業務とする「ちょうふ在宅医療相談室」(図2)です。入院から在宅医療への円滑な移行に関する東京都のモデル事業を受託するかたちで取り組みを開始。医師会事務室の一角にデスクを置き、長く市の福祉部門に勤務していたベテラン相談員(ケアマネジャー)1名を配置して、週2日からスタートしました。現在は週5日、相談員3名に拡充され、隔月で機関紙も発行しています。

図1◆訪問診療医紹介システムのイメージ

図2◆「ちょうふ在宅医療相談室」の役割と関係職種との連携。現在は月〜金曜、9:0017:00のフル稼働。相談員は3名のシフト制で運営しており、紹介実績は年30件前後、年間相談件数は述べ200件前後で推移している


POINT在宅医療担当理事が不安の声に丁寧に応える

「ちょうふ在宅医療相談室」を創設するにあたり関係者からは、「本当に市民の利益につながるのか」「地域包括支援センターとどこが違うのか」「モデル事業終了後、赤字事業として医師会に残るのでは」「依頼が多かった場合に対応できるのか」といった不安の声が寄せられましたが、在宅医療担当理事はこれらに根気よく応えました。調整機構の要不要に対する意識調査や、在宅医療のニーズを把握するための調査、全医師会員の在宅医療機能調査なども実施。最終的には、「実績を上げれば予算はついてくる」「何かあれば自分が責任を持つ」などと仲間を説得し、なんとか同意を得て事業を前に進めました。立ち上げからしばらくは、スタッフは非常勤のみにするなどしてリスクを軽減。「在宅医療勉強会」で診療所機能の底上げも図りました。

 在宅医の紹介は登録&手挙げ制

在宅医の紹介に関しては予め意欲ある医師会員に登録してもらい、紹介依頼があったときに患者情報(図3、4)をメーリングリストで共有、対応できる医師に手を挙げてもらう方式を確立。考え抜いた末に編み出したこのオリジナルの手挙げ方式は全国でも先駆的です。複数が手を挙げた場合は受診歴と距離で判断、誰も手を挙げなかったら在宅医療担当理事が対応する、といったルールも明確化されています。現在はいわゆる困難事例の受皿にもなっています。

図3◆在宅医の紹介を求める患者について記載する「在宅医療担当医紹介依頼シート」

図4◆より簡易な「在宅医療担当医紹介依頼シート」(ご家族用)


持ち出しがないから持続可能


在宅医療相談室は、都のモデル事業、包括補助事業、在宅療養環境整備支援事業などを活用し、自治体の事業として実施しているため、医師会の経済的負担はほぼありません。これは活動を継続するための大きな要素です。


医師と歯科医師がペアで摂食・嚥下機能支援

在宅医療相談についてはかなり幅広く捉えており、一般的な相談対応に加え、地域の人々が困っていることや医師から見て問題と思われる事柄には積極的に対応策を講じています。中でも「在宅における最も重要な課題の1つ」として2010年度から取り組んでいるのが摂食・嚥下機能障害の診断と支援です。口から食べることは肺炎予防や意欲の維持につながるからです。前述した「在宅医療担当医紹介依頼シート」の「お口の診察」「お口の状態」の項目(図5)からニーズを把握し、訪問による摂食・嚥下機能検査を実施します。

◯医師会の実績をベースに在宅医療・介護連携事業を推進

「ちょうふ在宅医療相談室」の運営は、多職種からなる運営協議会が担っています。市、3師会、各種協議会や連絡会、市民団体の代表、基幹病院のMSW、学識経験者などが参加しており、2015年に「調布市在宅療養推進会議」に位置づけられました。運営協議会の実績と信頼関係を事業に活かしたい調布市と、より公共的な活動をしたいと考える調布市医師会の思いが一致した結果です。

ちょうふ在宅医療ガイドブック

同推進会議の最近の主な活動成果としては、2015年度からワーキンググループを組織し2年がかりで完成させた市民向けの『ちょうふ在宅医療ガイドブック』(写真1)があります。地域包括ケアや在宅医療、関連職種についてのわかりやすい解説とともに、関連機関のマップやリストも掲載。“住み慣れた調布市でいつまでも暮らすための情報”をコンパクトにまとめて提供しています。現在は摂食・嚥下に特化した同様のガイドブックを作成中です。

写真1◆2018年3月に発行された『ちょうふ在宅医療ガイドブック』。好評につき、すぐに第2版がつくられ配布された


新たに4つの部会を組織

調布市在宅療養推進会議はさらに活動を深めるべく、国の示す8事業も意識しながら、2018年度から「市民啓発」「多職種連携」「研修・ICT」「摂食・嚥下」(委員会からの継続)の4つの部会を組織し活動しています(写真2、3)



写真2◆2018年4月に調布市在宅療養推進会議のもとに発足した「市民啓発部会」の様子



写真3◆同じく「多職種連携部会」の様子。第1回は病院との連携における課題などを話し合った


写真4◆調布市役所は京王線調布駅から徒歩5分ほどの便利な場所にある


写真5◆調布市医師会館は調布市役所と同じ道沿いにあり行き来しやすい


写真6◆市と医師会は常に課題を共有し連携している。左から調布市高齢者支援室職員、ちょうふ在宅医療相談室相談員、調布市医師会副会長、同在宅医療担当理事、調布市高齢者支援室長、調布市医師会事務局事務長



関係機関の役割

医師会:在宅医療担当理事を中心に各種活動や体制整備でリーダーシップをとっています。
:医師会はじめ各種団体と密に連携し事業を展開。会場の提供や広報などでも重要な役割を果たしています。

その他の活動情報

●調布市では市内の高齢者などの支援が必要な人が安心して安全に暮らしていけるよう、地域住民や地域団体による見守りのネットワーク「調布市見守りネットワーク(みまもっと)」を構築している。
●「ちょうふ在宅医療相談室」では、調布市認知症初期集中支援事業において、認知症初期集中支援チームと、在宅で暮らす認知症患者の橋わたし役を担うべく関係者とシステムを模索中。
●全医師会員対象の在宅医療機能調査は、2010年以降2年ごとに継続実施し次の取り組みに活用。
●かかりつけ医の在宅医療への参入の壁である24時間対応については、複数の在宅医療専門クリニックとの連携で補うべく調布市医師会主導で協議を重ねている。
●地域の活動を牽引してきた調布市医師会の現副会長は、市内10カ所の地域包括支援センターの圏域ごとに住民向けの会を毎月実施。在宅医療の実際を対話形式で伝えている。
●2009年に地域包括支援センター職員と民生委員の呼びかけで始まった多職種連携の会「調布在宅ケアの輪」も毎月開催。その後、調布市医師会内の研究会に位置づけられ、2019年には第100回を迎える。

地域DATA(調布市)

面積:21.58k㎡
人口(2015年国勢調査):229,061人
高齢化率(2015年、65歳以上):21.30%
一般診療所数(2017年10月現在):172
病院数(2017年10月現在):8

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