CASE12 茨城県/大子町(詳細版)
医師会員仲間で在宅医療グループをつくり
かかりつけ医による訪問診療を支える
大子町のここがすごい!
○町内の医療機関が協力して地域医療の体制づくり
大子町には病院と診療所がそれぞれ3つずつしかなく、医師会員はわずか17名と小規模ながら、皆で協力して24時間の救急医療や在宅医療を推進
○ 茨城型地域包括ケアシステムを活用し在宅医療グループを結成
茨城県では2017年度から、訪問診療を病・医院が連携して行う「医療提供施設等グループ化推進事業」(茨城型地域包括ケアシステム)を開始。大子町の医師会(茨城県水郡医師会)は県内で最初にグループ化を達成
○ 町内の医療機関が協力して地域医療の体制づくり
茨城県・大子町は1955年に1町8村が合併して誕生した県最北西の自治体です。
NHKの朝のドラマ「ひよっこ」の舞台となった町です。面積こそ県内第3位の広さですが、大半は山地で人口密度は53.9人/k㎡。病院と診療所は合わせて6つ。町内の医師で構成する茨城県水郡医師会(写真1、2)の会員数は17名で、全国の地区医師会の中でもかなり小規模です。1950年以来、人口は減少し続けており、高齢化率は県内で唯一40%を超え、約1万7,500人の住民のうち、独居高齢者が1,100人を占めています。半世紀前には、1,500人の児童が学んでいた町立小学校も、併合してもなお今では児童数100人という状況です。
写真1◆保育園だった建物を活用している水郡医師会の外観。従業員は事務局長1名のみ。書類は郵送せず、会員医療機関を訪問して直接配るという
写真2◆正式名称「茨城縣水郡醫師会」の看板からは歴史と誇りが感じられる
医師会員の輪番制で24時間の救急体制を維持
このように少子高齢化や医師不足が際立つ同町ですが、古くから、内科、産婦人科、整形外科、精神科など多彩な診療科を擁していました。近年は複数の医師が総合内科としての診療を行うようになり、町内に専門医のいない診療科については、大学病院から医師を派遣してもらって補完しています。また、救急医療については40年以上も前から輪番制により24時間体制を維持。町内で対応できないケースについては水戸市や日立市の大病院にドクターヘリなどを使用して搬送する仕組みを構築しています。大子町、水郡医師会、地域包括支援センターが足並みを揃えて医療過疎対策に対応しています。
写真3◆久慈川のほとりに建つ大子町役場
在任23年目の医師会長が活動を牽引
現在の医師会長(写真4)は大子町生まれで、勤務していた東京の病院をやめて実家の病院を継ぎ40年近くになります。医師会長になったのは1996年。その後、地域医療を立て直すためにも医師会活動に力を入れようと、自身の病院を有床診療所にし、訪問診療に力をいれています。(写真5)。常勤医は会長1人ですが、県内や栃木県の大学病院から曜日ごとに医師を派遣してもらい、その時間を訪問診療や医師会活動にあてています。こうした医師会長の熱心な姿勢が町内の医師の活動を牽引し、また、結束力にもつながっています。
写真4◆水郡医師会の会長と、看護師長として、地域の情報を共有しながらさまざまな対策を一緒に考え、地域活動を実践している会長の長女
写真5◆医師会長が経営する有床診療所。1961年、町内初の病院として開業し、13年前からは有床診療所に転換。この病院・診療所に勤務したのち町内で開業した医師は複数
POINT!親戚や友人としての絆が連携の力に
大子町生まれの医師会長は、町内の他の医師と医師会仲間であると同時に子どもの頃からの友人関係にもあります。また、親戚や自らが仲人をした相手が医療・介護業界で働いているなど、多くの町民と強い絆で結ばれています。加えて、忘年会や新年会をはじめ各種行事には多くの医療職、介護職を集めて交流を図るなど、地域のネットワークづくりにも力を入れています。こうした中で仲間意識や信頼関係が育まれ、一体感ある活動につながっています。
○ 茨城型地域包括ケアシステムを活用し在宅医療グループを結成
大子町では医師会長のように複数の医師が在宅医療も担っています。しかし、医師の絶対数は限られ、広い町内で散在する山間の在宅患者さんを1軒1軒回るにはとても時間がかかります。独居世帯が増えるなか、診療側には厳しい環境となっています。
医師会単位の在宅医療グループ第1号
そこで活用しているのが、茨城県が2017年度からスタートさせた「医療提供施設等グループ化推進事業」です。これは、郡市医師会ごとに、在宅医療に取り組む複数の医療機関が連携し、たとえば夜間対応などを持ち回りにすることで各医療機関や医師の負担を軽減しながら在宅医療の裾野を広げる仕組みで、この事業の主旨に共感した水郡医師会は、事業開始後すぐに名乗りをあげ、グループ化の第1号となりました。同事業の推進のため茨城県医師会が茨城県から事業受託するかたちで進められており、県医師会内に設置された茨城型地域包括ケアシステム推進センターが実務を担っています(写真6、7)。連携活動を開始したグループには初年度に限り上限100万円の補助金が支給されます。
写真6◆茨城県医師会が入っている茨城県メディカルセンター
写真7◆(右から)茨城型地域包括ケアシステム推進センターのセンター長でもあり介護支援専門員の資格も持つ茨城県医師会長と、2名の推進員
かかりつけ医の在宅医療を支える仕組み
この事業において、「グループ化」とは、「郡市医師会単位で、これから在宅医療に参入しようとしている、または在宅医療活動を拡充しようとしている少なくとも2つ以上(同一法人以外)の医療機関が協定を結び、図1に示す項目について実践すること」です。つまり「参入促進・連携」を意味します。この取り組みにおいて後方支援病院や在宅療養支援診療所には、グループを補完する役割が想定されています。水郡医師会では医師会長のクリニックと、長く連携関係にある近くの病院(写真8)が協定を締結し「水郡グループ1」を組織しました。この病院には常勤医が4名おり、二次救急の機能や、訪問看護ステーションも有しています。今回のグループ化により医師会長は、通院できなくなったかかりつけの患者を中心に在宅医療に一層の力を入れていく考えです。
図1 地域で支え合う医療機関の連携体制を構築するために必要な3つの取組
1これから在宅医療への参入又は拡充に取り組む医療機関同士の連携強化を図るための取組
2在宅医療を提供する連携体制として必要な拠点機能を担う取組
3 在宅医療についての普及啓発活動等の取組
写真8◆水郡医師会の在宅医療グループで重要な役割を果たしている病院
POINT!地域の実情を熟知した看護師などが仲人役
県内の医師会には水郡医師会とは異なり地域の医療機関の連携関係が希薄な地域もあります。お互いに院長の顔も知らないケースさえあります。そこで茨城型地域包括ケアシステム推進センターでは、長く県内の病院に勤務し、地域連携に関する業務に携わった経験もある看護師などを推進員として採用しました。推進員が県の担当者と郡市医師会長を訪問し事業を説明。その後、その医師会の事務局を訪ねて情報を収集。さらに個々の医療機関を訪問して説明し、院長の医療への考え方なども考慮してグループ化を仲介します。こうした活動により初年度は12グループの立ち上げに成功。2年目も10グループ程度のとりまとめを目指しています。
勉強会や市民啓発も進む
図1に示した通り、同事業では連携による在宅医療の実践だけでなく、連携強化のための取り組みや啓発への取り組みも行うことになっています。「水郡グループ1」では、在宅患者の情報を共有するための症例検討会や市民啓発のための講演会などにも着手。また、グループ1を成功事例とし、「水郡グループ2」を立ち上げることも検討しています。
関係機関の役割
医師会:ほぼすべての医療関係の取り組みについて主導的立場にあります。町:保健・医療・介護・福祉サービスの充実を町づくりのテーマと位置づけ、医師会の提案を前向きに検討し事業につなげています。
その他の活動情報
●町内で在宅医療に取り組む薬局は2店舗。●大子町では筑波大学総合診療科に寄付講座を開設。町内の医療機関に安定的に医師を派遣してもらい、在宅医療の最大のネックである医師不足に対応。
●水郡医師会では2011年から、医学生を対象に2泊3日の地域医療研修を実施。「医師になったら大子町で働きたい」という人材も出てきている。
●大子町は「子育て支援最前線の町」をキャッチフレーズとし、病児・病後児保育事業に力を入れるなど若い世代が暮らしやすく働きやすい環境づくりを進めている。
地域DATA(大子町)
面積:325.76k㎡人口(2018年住民基本台帳):17,572人
高齢化率(2018年、65歳以上):42.71%
一般診療所数(2018年4月現在):3
病院数(2018年4月現在):3