CASE16 千葉県/市原市(詳細版)
関係機関と連携してKDBデータを分析
実態に基づく確かな事業展開を目指す
市原市のここがすごい!
○厚生労働省の手引きに則り在宅医療・介護連携推進事業を計画的に展開
在宅医療・介護連携への本格的な取り組みは国の事業が始まってからだったものの、手引きに沿うことで無理なく着々と推進している
○医療・介護レセプト分析を活用し自らの立ち位置を可視化
厚生労働統計協会の調査研究に協力し、その結果を活用して、地域の現状を正確なデータとして関係者間で共有
○基幹病院の副院長が医師会長として地域医療を牽引
市原市医師会は、大学病院の副院長が会長を務める全国的にも希有な例で、市内の医療連携や仕組みづくりにおいて力を発揮している
○ 厚生労働省の手引きに則り在宅医療・介護連携推進事業を計画的に展開
市町村合併を経て現在の市原市ができたのは1967年です。東京湾に面した京浜工業地帯から、房総半島中部の山間部まで含む同市の面積は約370㎢で県内市町村中最大。政令指定都市である千葉市と並び、単独で1つの二次保健医療圏を形成しています。日常生活圏域は18圏域、地域包括支援センターは6つあります。
意見交換会、全体会議、3つの部会を段階的に組織
市原市が在宅医療・介護連携推進にかかわる事業に本格的に取り組み始めたのは2015年にスタートした在宅医療・介護連携推進事業がきっかけでした。それに先がけ2014年度には「医療と介護の連携に係る意見交換会」を実施し、続いて2015年に3師会はじめ医療・介護関連15団体で構成する「市原市医療・介護連携推進会議」を組織。さらに2016年には同会議の下に、同推進会議の委員の他に構成団体が推薦するメンバーからなる「多職種連携部会」「情報共有部会」「研修・啓発部会」の3つの部会を設置しました。これらは2015年3月に厚生労働省が公表した「在宅医療・介護連携推進事業の手引き」に則り段階的に進められてきました。
ア〜クを部会で分担し効率的に推進
3つの部会は、当初から図1のごとく8事業に沿って役割分担しています。なお、(イ)については全体に共通する事項として全体会議で検討・推進。(ク)については1市1医療圏という状況から(イ)に含めるかたちで進めましたが、他の市町村との情報交換などは行っています。2017年度は年間のテーマを「退院支援に重点を置いた医療と介護の提供体制の構築」と設定し、推進会議を2回、部会をそれぞれ2〜3回実施し、効率的に事業を推進しています。
図1◆医療・介護連携推進のための組織
脳卒中関連のモデル事業をベースにルールづくり
年間テーマとした退院支援に関して市原市では、2014〜2016年度の3年間に、千葉県のモデル事業であった「脳卒中患者退院時支援事業」を、千葉県医師会が受託し、市原市医師会主導で「市原保健医療圏域退院支援ルール」を策定していました。入院前にケアマネジャーのいる患者、いない患者、それぞれについて退院支援ルールを定めたもので、2017年度にはこのルールをベースに、脳卒中患者以外にも対応する入退院支援の仕組みづくりを行いました。具体的には、県内共通のツールである「千葉県地域生活連携シート」を使って情報共有します。同シートを活用した退院支援ルールについては、市原地域リハビリテーション広域支援センターと連携し研修会を実施。講義形式の研修会に加え、同センターが毎月開いている会合、「ちーき会」とのコラボレーションにより多職種を集めたグループワークなども行って、さらなる普及・活用を図りました。
組織再編して取り組みを深化
2017年度までの取り組みをさらに深めるべく、2018年度には年間テーマ、「地域における在宅療養中の患者・利用者への切れ目のない支援体制の構築に向けて」を定め、前述した3つの部会の再編成を行いました(図2)。これにより情報共有部会の活動は多職種連携部会に一体化。新たに「啓発部会」を設置して地域住民への普及啓発に力を入れ始めています。このように市原市では、具体的テーマに沿って、既存の資源を活用しながら組織づくりや取り組みを進め、活動を振り返っては現状に合わせて改善し、次の取り組みにつなげるという手法で、着々と在宅医療・介護の連携体制づくりを進めています。
図2◆再編後の組織編成
○ 医療・介護レセプト分析を活用し自らの立ち位置を可視化
市原市の事業の進め方は、「在宅医療・介護連携推進事業の手引き」が示す、PDCAサイクルの実践にほかなりません。このPDCAサイクルを回し続けるために欠かせないのが、課題把握や施策検討の材料となるデータです。正確なデータの収集・分析についてはまだ実践できていない市町村が多いとされていますが、市原市では、KDB(国保データベース)データを分析することで、地域住民がどのような医療機関・介護事業所を利用しているか、日常生活圏域ごとにその利用人数などに差があるか、医療サービス、介護サービスの充実度はどうか、といったことを具体的に把握しています。県内市町村の状況を比較できる図もテーマごとに示されているので、自らの立ち位置が一目でわかります。
高齢者人口の動向や地域特性から市原市が調査対象に
こうしたデータ分析を実際に行ったのは、厚生労働統計協会です。同協会は、在宅医療・介護連携推進事業をより効率的に進めるためにもデータ活用を手順として示すことが有用と考え、2017年5月〜2018年3月の10カ月間に市原市をフィールドとして医療・介護レセプト分析、医療・介護関係者へのヒアリング、最終アウトカムと施策・指標マップなどについて調査研究を行いました。首都圏にあって高齢者人口の増加が今後大きくなると見込まれるものの医療・介護連携推進がまだ進んでいなかったこと、日常生活圏域によって産業や人口密度が大きく異なること、前述した通り1市1医療圏であることなどが、市原市が調査フィールドに選ばれた背景にあります。
調査研究データを積極的に活用
市原市はこの調査研究に積極的に協力し、得られたデータを施策検討において活用し始めています。たとえば「市原保健医療圏退院支援ルール」を脳卒中患者以外にも広げようとする際には、疾病別患者数を、要介護度が軽度なグループと中重度なグループに分けてまとめたデータを参考にしました(図3)。前者では特に糖尿病患者が多く、後者では特に認知症が多いといった要介護者の疾病動向を関係者が把握、共有するのに役立っています。2018年7月には、千葉市内で開かれた報告会でデータ活用の状況などについて発表し、他の自治体への情報提供にもつなげています。同報告会では相談コーナーも設けられ、多くの参加者が利用しました(写真1、2)。
図3◆市原市の取り組みで実際に活用されたKDBデータ分析結果の一例:疾患別患者数(上:要介護度軽度、下:要介護度中重度)
写真1◆2018年7月、千葉市内で開かれた「在宅医療・介護連携に係るデータ分析結果 市町村報告会」で市原市の取り組みを発表する市原市保健福祉部長
写真2◆市町村報告会会場に設けられた相談コーナー
POINT!調査研究委員会を組織しデータ活用手順書を作成
データ活用にあたっては、市原市、市原市医師会、千葉県、千葉大学、千葉県医師会、医療・介護関係の有識者メンバーによる調査研究委員会(9名)および作業部会(4名)を組織。集まったデータをもとにここでアウトカム指標、PDCAのための手順などの検討・確認や各種集計が行われ、最終的には『在宅医療・介護連携を推進するためのデータ活用手順書』としてまとめられました。調査委員会委員長を務めた千葉大学医学部教授は、「在宅医療・介護連携の先進地域ではない市原市の取り組みだからこそ、全国の多くの市町村の参考になるはずです。手順書は、データ分析に不慣れな自治体でも適切に調査研究を進めることができ、その結果を施策につなげていけるようにキット化したものです。ぜひ活用していただきたい」と話しています。
○ 基幹病院の副院長が医師会長として地域医療を牽引
2018年10月現在、市原市医師会の会長は、地域救命救急センター、がん診療連携協力病院、災害拠点病院などに認定されている帝京大学ちば総合医療センターの副院長が務めています。同医師会長は、「急性期病院、しかも大学病院出身の医師会長として、行政との強い連携を持ちながら急性期病院目線で取り組むことができるのは大きなメリットと考えています」と話します。
市原市医師会にとっての喫緊の課題は、地域医療構想を推進させることと、「ほぼ在宅、ときどき入院」という地域包括ケアの根幹を実現させていくこと、との認識で、日々の活動を進めています。
関係機関の役割
医師会:包括的な医療体制を確立すべく、関係機関と連携し、仕組みづくりを進めています。市:国の事業に沿うかたちで在宅医療・介護連携体制づくりに熱意をもって取り組んでいます。
その他の活動情報
●市原市医師会の会員の中で24時間体制の在宅医療に取り組む診療所は2カ所。在宅医療部会もつくれずにいたが、今回のデータ分析をきっかけに部会が立ち上がり活動を開始。地域DATA(市原市)
面積:368.17k㎡人口(2015年国勢調査):274,656人
高齢化率(2015年、65歳以上):26.20%%
一般診療所数(2017年10月現在):118
病院数(2017年10月現在):13