CASE6 大阪府/北大阪(詳細版)


共通認識で結ばれた多職種ネットワークが
“最期まで家で暮らす”を支える力になっている  

北大阪のここがすごい! 

○在宅医療専門クリニックを中心に草の根的に広がるネットワーク

開業約20年になる在宅医療専門クリニックが地域の医療機関や介護事業所の特徴を把握し個別に連携。市民まで巻き込んだ活動も展開している

在宅医療・介護に取り組む仲間同士が補完し合える関係にある

エンドオブライフ・ケアを多職種協働のための技術、理念として共有

医療職・介護職が力を合わせて演劇形式で市民啓発

地域の医療職、介護職が演劇形式で、在宅医療の実際をわかりやすく市民に伝えている



○在宅医療専門クリニックを中心に草の根的に広がるネットワーク

ここで紹介するのは市区町村を単位とした活動ではなく、大阪市淀川区の在宅医療を主として活動するクリニック(写真1、2、3)を中心に、共通認識をベースにつながる多職種による活動です。同クリニックは1999年の開業時から、「在宅緩和ケアの実践」「多職種でのかかわり」「支え合える地域づくり」の3つの理念に沿った活動を展開。その過程で地域の病院や薬局、訪問看護ステーション、介護事業所などとの良好な関係を築き、独自のネットワークを広げてきました。訪問範囲は車で片道30分以内が目安。当初より緩和ケアに力を入れており、年間の看取り数は80人前後、うち6割前後ががん、4割前後が非がんの人です。

病院と患者の調整役も担う

在宅医療を希望する人と同クリニックをつなぐのは病院の地域連携室、看護師、ケアマネジャーなどいろいろです。基本的に在宅医療開始前に家族(本人も同席の場合あり)に来院してもらい1〜2時間、医師と看護師がペアで面談し、病状や今後の変化、医療費、制度の活用など含めて説明します。退院前カンファレンスも積極的に行い、病院側と患者側の意見の調整役も担います。また、状態が厳しい場合にはすぐに自宅に出向き、在宅ケアをスタートさせます。同時進行で訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、ヘルパー、その他介護事業所なども調整。スピーディーな動きが可能な事業所がどこにあるのかはこれまでの活動の中で細かく把握しており、電話一本で必要な職種が即時結集することが可能です。

写真1◆大阪の街に溶け込むようにビルの一室に入るクリニック


写真2◆在宅医療のコーディネーターを自認するクリニックの内部は事務所のよう。常勤医4名、看護師4名、事務職3名が勤務している


写真3◆クリニックの一角に設けられた外来診察室。かかりつけの患者の緩和ケア外来や家族面談室として活用している


フレキシブルに対応

このクリニックの院長は医師会員ではありませんが、医師会主催の緩和ケア勉強会で講師を務めることもあります。また、たとえば医療依存度の高い人、がんの痛みの激しい人、小児といった対応が難しい症例を引き受けるなど、在宅医療のエキスパートとしての力を発揮することで地域医療に貢献しています。医師会の方針や仕組みに良い意味で縛られない立場だからこそ、さまざまなケースに個別に、フレキシブルに対応できるともいえます。

在宅医療・介護に取り組む仲間同士が補完し合える関係にある

フレキシブルな対応を可能にするためには、かかわる人たちが職種や所属を超えて技術と知識を共有する必要があります。そのために取り組んでいるのがエンドオブライフ・ケアの学びと実践です。一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会ELC)が行っている「エンドオブライフ・ケア援助者養成基礎講座」での学びを基に、現場での対人支援に活かしています。

かかわる職種の共通認識はELC

ELCの講座で学ぶのは、反復、沈黙、問いかけを交えた援助的コミュニケーション、苦しみや支えのキャッチ、支える人の支援という視点などです。これらは在宅緩和ケアを実践するうえで必要なスキルであり、かかわる多職種をつなぐ共通概念にもなります。院長はELC近畿研究会の活動にも参加し、地域の医療・介護職とともに、フラットな関係を大切にして活動しています。


医療職・介護職が力を合わせて演劇形式で市民啓発

専門職だけがどんなに意識や技術を高めても、「家で暮らしたい」という当事者の意識とそれを支える家族の存在なくして在宅医療は成り立ちません。しかし、亡くなったときに救急車を呼んでしまうなど、繰り返し説明してもなお、正しく理解されていない面があります。そこで在宅医療の実際を体感的に捉えてもらおうと、関西圏の仲間とともに演劇形式の市民啓発を企画しました。

演劇で伝える在宅医療の実際

医療職、介護職仲間が集まって結成したその名も劇団「ザイタク」。「ピンピンコロリって無理なん知っとう?」という作品を、「第6回近畿在宅医療推進フォーラム(201511月)」で披露。DVD化された短縮版は勇美記念財団より配付されました。市民に親しまれている地域の医療職・介護職が地元の言葉で演じるこの方式は神戸市垂水区のエナガの会の協力を得て導入したもの。医師が患者を演じるなど日頃と逆の立場に扮するのは劇団ザイタクの特徴です。3作目、がん患者さんのエンドオブライフ・ケアをテーマとした「ずっと一緒やね~お母さんのおくりもの~」が2018106日土曜日午後(クレオ大阪中央)に第9回近畿在宅医療推進フォーラムにおいて予定されています。今後は、自治体による市民啓発活動との融合などが期待されます。

その他の活動情報

●このクリニックの院長は在宅医療や緩和ケアにかかわるさまざまな学会、研究会活動に携わっており、そこで得た知識や人脈を地域での活動に活かしています。
● このクリニックに勤務した医師が大阪府各地で複数開業しており在宅医療の広域連携も可能。
● 同法人に在宅医療・神経難病に特化したクリニック(豊中市)があります。

地域DATA(大阪市)

面積:225.24k㎡
人口(2015年国勢調査):2,691,185人
高齢化率(2015年、65歳以上):25.30%
一般診療所数(2017年10月現在):3,061
病院数(2017年10月現在):178

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