CASE7 兵庫県/神戸市(詳細版)


市民啓発演劇で行政含め19職種が一体化
医師会と大学共催の医師向け在宅医療塾も定着


神戸市のここがすごい! 

劇仕立ての市民啓発を考案し住民の理解度アップに成功

地域の多職種が自分の職種役で出演する医療・介護演劇が地域の一大イベントに成長。シビアな現実も笑いとともに伝え、住民の理解度が大幅アップ

演劇の稽古を通した一体感が地域包括ケアの土台に

演劇の稽古のために繰り返し集まることで多職種が自然に連携。区の職員や葬儀業者らまで仲間の輪が広がっている

医師・医学生限定の実践的な在宅医療塾が定着

医師会と大学が共催する「神戸在宅医療塾」は、参加資格をあえて医師と医学生に絞ることで医師が本気で学べる場を実現


 ○演劇仕立ての市民啓発を考案し住民の理解度アップに成功

講演会や講座を何度繰り返しても在宅医療や地域包括ケアを一般市民に理解してもらうのは難しい―。これは全国の多くの自治体にとって悩みのタネです。神戸市垂水区でも、2012年に域包括ケアをテーマに講演主体の市民フォーラムを行った時点までは同じ課題を抱えていました。

市民の疑問・不安に手づくりの劇で応える

事態打開のために目をつけたのは、同じ神戸市内の長田区で演劇を通じた認知症啓発活動を継続的に行っていた開業医。この開業医を主役として招き、同様の内容を演劇仕立てで半年後に上演したところ、終了後のアンケートで「在宅で受けられる支援がわかった」と答えた人が40%弱から70%以上にほぼ倍増。以来、毎年、タイムリーなテーマで“講演ならぬ公演”を繰り返しています(写真1、2、3)。若い頃、映画監督を目指していたSWが現場の意見を盛り込み書き上げる台本はユーモアたっぷり。2年目からは垂水区役所職員数名も参加。区が広報に力を入れていることもあり市民がたくさん集まります。区長が認知症高齢者に扮した回もあり、この作品は神戸市主催の市民フォーラムでも上演されました。

写真1◆演劇の一場面。救急隊、医師、看護師ともに本物。それぞれが自分の本職を演じながら、伝えたいことを一生懸命に伝える


写真2◆公演開始前の会場の様子。地域の一大イベントとなり毎回超満員


写真3◆終了後は劇づくりの参加者が全員集合


ベースは多職種が集う「エナガの会」

演劇活動の中心は、区内で在宅医療に取り組む医師の呼びかけで2009年3月に設立された多職種連携の会、「神戸西医療・介護地域ケアネット」です(写真4)。家族のいない鳥も子育てを手伝ったりすることからヘルパーバードの異名を持つ野鳥、エナガの名をとって通称「エナガの会」と称してきましたが、2018年2月、正式に「特定非営利活動(NPO)法人エナガの会」を設立しました。

写真4◆「エナガの会」定例勉強会の様子。さまざまな職種が集まって、同じテーマで意見交換



POINT非営利を打ち出すことで連携を容易に

エナガの会をNPO法人にしたのは、他の組織や団体と、より連携しやすくするためです。同会の活動が広く知られるようになり、垂水区はじめ行政や各種団体と一緒に活動したり、全国の医師会などからノウハウの提供を求められたりする機会が増えました。そこで会の位置づけ、特に非営利団体であることを明確に示すことにしたのです。


 演劇の稽古を通した一体感が地域包括ケアの土台に

エナガの会の演劇は、台本、照明、大道具、小道具、音響、そして役者まですべて会員とその仲間たちの手づくりです。準備や稽古などで多大な時間とエネルギーを要しますが、ほかでは得難い達成感や、専門職としての使命感がそれを支えています。何より稽古を通して生まれる一体感はかけがえのないもの。ここで演劇仲間となった医療職・介護職は顔の見える関係以上の信頼関係で結ばれ、本業での地域連携にも好影響が出ています。演劇の参加者は当初の10職種23名から、直近では消防士や葬儀業者なども含めた19職種70名に増え、「エナガの活動は地域包括ケアシステムそのもの」とさえいわれています。

厚労省も着目

垂水区にはエナガの会のほかに、垂水区医師会と区の担当部門が手を組んで2010年に発足させた「垂水在宅医療介護福祉連携協議会」もあり、双方が協力して在宅患者の症例検討会や、関係職種の育成などに取り組んでいます。エナガの会をつくった医師は、垂水区医師会、神戸市医師会でも要職にあり、この医師が関係団体の橋渡し役にもなっています。職種や組織を超えて広がる垂水区内の活動には国も着目しており、201711月には、エナガの会代表と垂水区職員が揃って「厚労省全国在宅医療会議WG」で活動報告を行いました。

医師・医学生限定の実践的な在宅医療塾が定着

エナガの会代表が、神戸市医師会在宅医療担当理事としてかかわっているものに「神戸在宅医療塾」があります。2025年に向けて在宅医療連携推進に取り組んできた神戸大学病院患者支援センターが、在宅医療に取り組む医師を増やすことを目的に、神戸大学医学部地域医療教育学部門そして神戸市医師会と合同で企画し、201410月から毎月(2016年度から隔月)継続的に実施している本格的な「在宅医療の医学教育」です(写真5)

POINT医師・医学生限定だからベテラン医師も参加しやすい

「神戸在宅医療塾」の参加資格は原則として医師と医学生のみ。このように対象を絞っている背景には、他の職種が一緒では医師は勉強しにくいという、医師の視点に立った配慮があります。テーマも「在宅における泌尿器疾患」「小児在宅医療」など、病院医療に携わってきた医師がこれまで触れてこなかった分野を積極的に取り上げ、実技も含めて指導しています。神戸市医師会員以外の医師も講師に招く、参加は興味や都合によって毎回自由など緩やかな運営も魅力。多職種合同の勉強会の多くは医師の参加が少ないといわれますが、同塾には毎回、開業医を中心に少なくとも約40名、多い回には80名以上の医師が参加しています。授業料は500円/回。


写真5◆神戸在宅医療塾の会場となっている神戸大学附属地域医療活性化センター


実践的な在宅医療教育

「神戸在宅医療塾」は突然始まったわけではなく、2006年から在宅医療従事者ネットワークとの関係構築、大学病院内の医療従事者向け在宅医療講演会、在宅医療機関64カ所の実地調査、大学病院医師と地域の在宅医の懇話会を、年単位で段階的に積み上げてきています。また、毎回入念な打合せを行い、学びやすい仕掛けをつくり、アンケートで拾い上げた要望も反映。地域の状況とニーズを把握したうえでの在宅医療教育は、実践で役立つと好評です。



関係機関の役割

医師会:垂水区医師会、神戸市医師会ともに在宅医療推進担当者を置き、他の機関との連携を積極的に推進
県・市:関連団体や医師会の活動を助成
大学:地域の医師が参加しやすい日時、形式を工夫し、在宅医学教育に取り組む

その他の活動情報

●「エナガの会」では演劇のDVDや製作マニュアルも作成し、惜しみなく提供しています。
●「神戸在宅医療塾」は「京都在宅医療塾」をモデルに企画され、神戸大学医学部地域医療教育学部門の協力を得て、兵庫県の地域医療介護総合確保基金を財源に運営されています。
● 「神戸在宅医療塾」では毎年夏に多職種対象の特別企画も実施し、人材育成と多職種連携の機会にしています。

地域DATA(神戸市)

面積:557.03k㎡
人口(2015年国勢調査):1,537,272人
高齢化率(2015年、65歳以上):27.10%
一般診療所数(2017年10月現在):1,429
病院数(2017年10月現在):110

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