CASE8 沖縄県/沖縄市(詳細版)
ソーシャル・キャピタルを効果的に活用し
組織や事業を超えた支え合いを実現
沖縄市のここがすごい!
○市の担当者が地域の課題を実感として把握し次々に対応策を講じている
高齢福祉課の職員の在籍期間が長く、医療・福祉・介護の変遷を見ながら現在の課題を把握し、丁寧に対応している
○地域のために幅広く活動する医師を核として、多様な職種が協働している
在宅医療に取り組む中核病院の医師が、多職種からの相談対応、困難事例対応など地域の問題解決に尽力している
○顔は見えなくても多職種がつながっている
困っている人のために行動する文化があり、連携関係をわざわざつくらなくても一緒に動ける関係がある
○ 市の担当者が地域の課題を実感として把握し次々に対応策を講じている
沖縄県は貧困率が全国平均の約2倍、肝硬変の原因としてアルコール依存症が突出して高いなど大きな問題を抱えています。この状況は沖縄市もほぼ同様で、貧困とアルコールの問題に常に対峙しながら、地域包括ケアシステムづくりを進めています。市の担当者は、市内の高齢者の動向や社会資源の実態を経時的に理解したうえで現在の課題を見出し、解決に向けた対応策を講じています。事業そのものは中部地区医師会(3市4町5村を管轄)に委託していますが、行政関係者も地域に溶け込み、活発に活動しています。
医療、介護、住民、それぞれに課題
市の担当者が日々実感している現在の課題は、入院医療と在宅医療・介護をつなぐ機能が不十分、介護職の情報交換などの場がない、夜間対応できる事業所の不足、ヘルパーの人材不足、看取りに対応できる介護施設が少ない、ACPが進まず人生の最終段階に本人の意思が反映されていないなどです。
「昔に帰っていくんだね」と市民たち
これらすべてに対し、市では一つひとつ対策を講じています。一例として市民向けには、「人生の最期をどこで迎えたいですか?」とストレートに問いかける講演会を実施(写真1)。これまでとは逆に、自宅をはじめ地域で過ごす方向に国の施策が進んでいること、各自の死生観が問われていることなどを皆で考えました。参加した市民からは「昔に帰っていくんだね」との声が聞かれるなど、生活の場での死が比較的自然に受け止められています。また、多職種連携研修会や、市内の介護事業所が介護従事者向けの緩和ケア研修、介護施設での看取り演習などを、関係機関の連携により実施しています(写真2、3、4:末尾の「その他の活動情報」参照)。
写真1◆看取りをテーマとした住民向け講演会のチラシ。関心が高く、定員290名の会場は満席。この集まりの良さも沖縄市の特徴だ
写真2◆沖縄市が地区医師会と共催する多職種連携研修会
写真3◆県立病院の緩和ケア認定看護師による介護従事者向け研修
写真4◆介護施設における看取りの演習
すでにあるつながりを利用
課題の把握や対策のためにはさまざまな機会を利用します。たとえば地域ケア会議や各種職能団体の会合などには市の担当者が直接顔を出して意見交換。会議後の飲み会も日常的で、その場が企画会議になることもしばしばです。市内37自治会に民生委員などが集まり毎月合同で実施している福祉連絡会も、情報交換や啓発の機会として有用です。
○ 地域のために幅広く活動する医師を核として、多様な職種が協働している
市の担当者が頻繁に連絡をとり、ともに活動している人材に、地域の中核病院(写真5)の内科医がいます。この医師は外来・入院・在宅すべての医療を実践。地域の医療職・介護職から頼られる存在で、貧困家庭やアルコール問題、受診拒否、ゴミ屋敷などいわゆる困難事例に際して困った専門職から現場に呼ばれ、緊急出動してはその場を治め、継続的なサポートにつなぐなど、SWのような役割も率先して担っています。
市民支援に熱心な市職員を助けたい一心で医師も活動
この医師は自称“なんでも屋”。このような活動をするようになったのは、被虐待者を行政の強制執行で虐待者から逃がすなど、市民を守るために権限を公使したり、ときには
いわゆるゴミ屋敷の片付けを手弁当で手伝ったりする市の職員の姿を見て、なんとか力になりたいと感じたのがきっかけ。いまでは自ら医師としての権限を良い意味で発揮して、問題解決にあたっています。2017年度から沖縄市の在宅医療介護連携推進会議委員長を務め、現場での経験を活かして事業にかかわっています。
この医師に限らず、地域のために積極的に活動する医療関係者や介護関係者が少なくなく、そうした個人の動きを核として拡がりを見せるのが特徴と言えるかもしれません。
写真5◆沖縄市内の中核病院(建替えのため仮設中)
POINT!高齢者を敬うウチナンチュ気質が助け合いの支え
沖縄市で働く行政職や医療機関、介護施設などの職員には、市外や県外から赴任した人も多くいます。その人たちが口を揃えて語るのが、ウチナンチュ(沖縄の人)は高齢者にやさしいということ。高齢者を尊敬し、皆で守ろうとする姿勢が息づいているといいます。困っている高齢者がいたら、職種や立場を超えて力を合わせて助けようとするのが自然。そんなウチナンチュ気質が、ソーシャル・キャピタルのベースであり、外部からは見えにくい個別の助け合いを支えています。
○ 顔が見えなくても多職種がつながっている
地域的な特性もあり、これといったグループや仕組みがなくても多くの専門職が連携に前向きです。多職種連携を語る際にはよく、“顔の見える関係”といわれますが、沖縄市では顔が見えていなくても、何かあれば気軽に電話をしたり、講演会などの会場で声をかけ合って相談したり、といったことが日常的に行われています。
写真6◆当たり前のように協力し合っている、(左から)中部地区医師会コーディネーター、沖縄市職員2名、中核病院の内科医、県立病院医師
関係機関の役割
医師会:管内12自治体から委託を受け事業を推進。2017年から12自治体を4グループに分け、より小さなエリアでのシステムづくりも推進市:経験豊富な担当者が地域に溶け込み主体的に活動
県:県内における在宅医療推進支援事業を県立病院の医師が統括しており、市の事業推進をサポート
その他の活動情報
●従来は1カ所だった地域包括支援センターは2017年度から7カ所に。委託先の公募に手挙げをした民間事業者の中から選出。●中部地区医師会では2017年度に、住民向け講演会のほかに多職種連携研修会も実施し、医師5名を含めた200名以上が参加、講義に加えて相談や交流も行いました。
●市民啓発については、講演会などに参加しない人にも考える機会を持ってもらおうと、地域包括支援センター単位で住民同士語り合うスタイルを企画中。
●沖縄市内にある県立の基幹病院、地域の中核病院は、ともに病床稼働率が98%と限界状態。この解決策として施設での看取りを進めようと、施設における看取り研修会を開催しています。
地域DATA(沖縄市)
面積:49.72k㎡人口(2015年国勢調査):139,279人
高齢化率(2015年、65歳以上):18.00%
一般診療所数(2017年10月現在):71
病院数(2017年10月現在):9