CASE10 群馬県/高崎市(詳細版)



活発に活動する関係者・関係機関が連携拠点や連携ツールでつながりつつある 

高崎市のここがすごい! 

○有志による地域緩和ケアネットワークが確実に広がっている

在宅緩和ケアを進める有志がつながり活発に活動。“顔・心・腕・脚まで見える”ネットワークづくりが進む 

関係者・関係機関それぞれが在宅医療・介護連携に前向きに取り組んでいる

高崎市、高崎市医師会はじめ訪問看護師、ケアマネジャーなど関係する職種や組織それぞれが在宅医療・介護連携を強く意識して活動している

  

有志による地域緩和ケアネットワークが確実に広がっている

「いわゆる都会でも田舎でもなく、住民の職業もさまざまで、比較的自由な気質。医療・介護ニーズも幅広いのが高崎市」とは、市内で30年近くにわたり在宅医療に取り組む医師の言葉です。この医師は病院の勤務医時代から在宅ホスピスケアに取り組み、80年代後半に「群馬県ホスピスケア研究会」を立ち上げました。1991年に開業して以降はその活動をさらに進め、「最期は自宅で暮らしたい」と希望する人たちの思いに応え続けてきました。

看護師や市民とともに90年代からホスピス運動

診療と併行して展開したのがホスピス運動です。地域で在宅ホスピスケアに取り組む人材の育成にも着手しました。1999年には古民家を利用したミニホスピスを開設し、自宅での生活が困難になった人を対象に、親しい医療者、介護者との関係性を保ちながら安心して暮らしてもらえる環境を整えました。

写真1◆30年近くにわたり在宅ホスピスケアに取り組む高崎市内の診療所。治療を支える医療技術としての緩和ケアとは一線を画し、「人権をベースとした一人ひとりの物語に沿った終末期ケア」に取り組む


顔、心、腕、脚まで見える関係づくり

「地域全体をホスピスにしよう」と多職種を集めて、開業医への啓発、医療者・市民双方への情報提供などを主に行う「高崎地域緩和ネットワーク」を設立したのが2008年。同ネットワークでは、関係者が顔見知りになるだけでなく、仕事内容、考え方、そのレベルやフットワークまで知り合うことで、地域で暮らす人々を支える力を高めようとしており、“顔だけでなく心・腕・脚まで見える関係”づくりを進めています。実際、高崎市民が在宅療養を希望すればそれを叶えることができる準備ができています。今後はこのネットワークをさらに広く、強いものにし、災害時などに他地域からの避難者をも受け入れることができるような体制を固めるのが目標です。 

POINTネットワークの運営は現場スタッフ、代表は黒子

「高崎地域緩和ケアネットワーク」が活発な活動を継続できている大きな理由に、運営を現場スタッフに任せている、ということがあります。初代代表である医師は相談役に徹し、活動内容や市民講座などのイベント企画は地域の医療・介護スタッフに一任しています。任せてもらえることがやる気や面白さにつながり、次々にアイデアが出るようになりました。また、その雰囲気が魅力となり年々仲間が増え、現在は12職種が参加する大きな会になっています。個人の立場で参加している行政マンもいます。現在はケアマネジャーが二代目代表を務めています。



関係者・関係機関が在宅医療・介護連携に前向きに取り組んでいる

在宅ホスピスケアは最近まで、医療関係者からも市民からも理解されにくい状況でしたが、在宅医療推進のための国策が進み、日本医師会も在宅医療への取り組みを表明するなどパラダイムシフトともいえる変化が起こるのに伴い、関係者の考え方も変わってきました。

医療と介護の連携拠点づくり

高崎市医師会が在宅医療への取り組みを本格化させたのは2015年です。また、同じ年に高崎市では、連携拠点として高崎健康福祉大学訪問看護ステーション内に「高崎市医療介護連携相談センター」を設置しました。同センターでは各種研修会や意見交換会などを行って職種間連携や多職種連携の土台づくりを推進。同時にケアマネジャーの教育、看護学生への情報提供など次世代の育成にも目を向けました。
2016年には、「高崎市医師会在宅医会」(A会員約260名中約60名が参加)が発足し活動を開始。さらに2つめの医療介護連携相談センターが市の補助金の元、医師会立で設置されました。こちらのセンターでは、毎月「ケアマネカフェ」を行うなど医師とケアマネの距離を縮めることに尽力。また、「在宅医療相談窓口」を設けて医師や患者からの相談に応じ、さらに在宅医療と介護の連携構築のための諸事業を行っています。 

POINT市役所と医師会が物理的にも心理的にも近距離

高崎市医師会が入っているのは、市の保健医療総合施設である「高崎市総合保健センター」です(写真2、3)。同センターは高崎市役所(写真4)から300mほどしか離れていないため頻繁な行き来が可能。地域包括支援担当部門である長寿社会課の職員は、「何かあれば気軽にセンターに赴き、医師会の方々に直接会って相談できるのでとても心強いです」と話します。


写真2◆高崎市医師会が入る高崎市総合福祉センター


写真3◆高崎市総合保健センターには、高崎市保健所、高崎市歯科医師会、高崎市薬剤師会、高崎市健診センターなども揃って入っている


写真4◆JR高崎駅から徒歩10分ほどの場所に立つ高崎市役所


写真5◆高崎市総合保健センター会議室に集まった関係者の皆さん


市の主導で情報共有ガイドラインを作成

高崎市には在宅療養を続けている人が少なからずいる一方で、主治医やケアマネジャーに連絡がないまま入院、転院、施設入所などが行われるケースが少なくない状況で、意思確認や情報共有が十分できていない面があります。そこで高崎市主導で関係者の協力を得て作成したのが「高崎市医療・介護関係者のための情報共有に関するガイドライン〜質の高いケアを提供するために〜」(写真6)です。2017年度に関係者・関係機関が集まって検討を重ねてまとめたもので、その作成の過程も、お互いの理解や連携促進に役立ったといいます。

写真6◆医療・介護関係者に配布されている「高崎市医療・介護関係者のための情報共有に関するガイドライン」(A4判42ページ)。入退院時の情報提供シート、個人情報使用同意書など連携のための各種書類の様式集も収載


病院と医師会の連携

高崎市医師会では、会員が在宅医療に参入しやすくするための1つの取り組みとして、病院との連携を強化しています。たとえば市内にある基幹病院との連携という意味では、高崎市医師会副会長が基幹病院地域連携室の地域連携委員会委員となってより円滑な退院調整を推進。また、約20ある中小病院との連携としては、詳細なアンケート調査により各病院の得意分野やレスパイト入院など在宅療養の支援体制を把握し、医師会員への情報提供を始めています。

看取りの体制づくりに着手

在宅看取りに対する組織立った体制づくりはまだ進んでいませんが、たとえば「高崎健康福祉大学訪問看護ステーション」では看取り期に対応できる訪問看護ステーションの育成を考えています。また、「群馬県介護支援専門員協会(ケアマネ群馬)高崎・安中支部」ではアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の勉強会を開いたり、在宅死が変死扱いにならないよう警察と情報共有することを考えたりと、個別の取り組みには着手しています。今後はこうした取り組みが職種や組織を超えてつながっていくことが期待されます。



関係機関の役割

医師会:高崎市医師会在宅医会を中心に、会員が在宅医療に参入しやすくなるような体制づくりを、総合的に推進しています。
:医療・介護連携のための各種取り組みで音頭取りを担っています。

その他の活動情報

●高崎市では、24時間365日、電話一本でヘルパーの緊急訪問や緊急宿泊を利用できる「介護SOSサービス」や、1日3食の配食サービス、GPSを使った高齢者の見守りサービスなど、介護保険外の独自の施策を展開。
●高崎市医師会では、医師とケアマネジャーがスムーズに面談できるための指針「各職種の皆様へのお願い」や、市民の疑問に応える「在宅療養Q&A」などを配布。
●高崎市で在宅ホスピスケアを推進してきた医師は、2010年に発足した「群馬県在宅療養支援診療所連絡会」会長も務めており、一般の医師の在宅医療への参入も支援。
●高崎健康福祉大学訪問看護ステーションでは大学内ステーションという特殊性を生かし、教員、関連学科の学生への啓発を進め、地域医療・介護を担う人材育成につなげていく方針。

地域DATA(高崎市)

面積:459.16k㎡
人口(2015年国勢調査):370,884人
高齢化率(2015年、65歳以上):26.50%
一般診療所数(2017年10月現在):299
病院数(2017年10月現在):27

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