CASE4 大阪府/和泉市(詳細版)
医師会と市が長年協力
和泉市独自の“連携条例”が推進力に
和泉市のここがすごい!
○医師会の英断により顔の見える関係づくりが始まった。連携構築からすでに10年
「地域包括ケア体制の構築」という手探りのテーマに、真正面から取り組む決断をした医師会のリーダーシップにより、すべての医療と介護の関係機関を巻き込んだ、顔の見える関係づくりの取り組みが始まった
○協働が「連携推進条例」制定に発展、さらに取り組みが確固としたものに
「医療と介護の連携は、当事者である市民が主役であるべきである」という理念のもと、市民を含めた関係者の連携関係を維持し、施策を確実に進めるため独自の条例を制定。担当者が代わっても取り組みが継続できる環境が整備されている
○ 医師が介護を理解し重視し連携を図っている
医師が介護を理解し重視している。医療と介護の市役所内の分担は、医師会によって有機的な連携に至っている
○医師会の英断により顔の見える関係づくりが始まった。連携構築からすでに10年
和泉市で医療と介護の連携に関する取り組みが始まったのは、2007年度から2009年度の2カ年事業である「大阪府地域包括ケア体制整備モデル事業」への参加意向について、大阪府和泉保健所から和泉市高齢介護室へ照会がされたことが契機でした。その頃は「地域包括ケア」の概念もまだ一般的ではなかったため、手探りの取り組みになると直感した和泉市の担当部署は、本事業の進め方や先進地への視察について医師会長に相談。医師会長は、多忙なスケジュールの中、日帰りで行政視察に参加し、持ち帰った地域包括ケア体制構築のビジョンを医師会幹部に説明することを決断しました。当時、医師会内部では「地域包括ケア」のイメージや、「医療と介護の連携」の重要性の捉え方に差があり、取り組みに難色を示す医師会幹部もいる中でしたが、医師会長が「地域包括ケアシステムづくりはこれからの市民生活には欠かせない重要なもの」と会員を説得し、医師会が主導となって、歯科医師会や薬剤師会、訪問看護ステーション協会、介護支援専門員協会などの関係機関を巻き込んでの取り組みが始まりました。
医療と介護の垣根を取り払う
地域包括ケア体制整備を進める中で和泉市医師会が重視したのは、医療職と介護職の間にあった垣根を取り除くこと。そのため有志で「和泉市医療と介護の連携推進会議」をまず組織し、2007年度からは各種ワーキンググループ(WG)をつくって活動。「在宅で必要な医療情報収集のためのキーワード集」など連携ツールの開発も行いました。2010年度には多職種が集うシンポジウムを開催。名刺交換など交流の時間を意識的に設けるようにしたこともあり両者の距離は急速に縮まりました。さらに2011年度には「和泉の医療と介護の連携を考える市民フォーラム」など、市民を巻き込んだ活動を開始しました。
写真1◆和泉市医師会事務局のある和泉市保健センター。和泉市役所の最寄り駅でもあるJR阪和線和泉府中駅から約1km。和泉市立総合医療センターにも近い
○協働が「連携推進条例」制定に発展、さらに取り組みが確固としたものに
活動を始めて何年かすると、「医療と介護の連携は、当事者である市民が主役であるべきである」という理念が非常に重要であると気づきました。また、市長や医師会長また担当者の変更があっても、安定して続けていくためには軸となるものが必要と考えた関係者らは検討を重ね、市民を含めた関係者の連携関係を維持し、施策を確実に進めることを目的に、2013年5月1日、全国的にも類のない条例が施行されました。
「和泉市市民を中心とした医療と介護の連携推進条例」
これが条例の名称です。「高齢者が住みなれた地域で自分らしく暮らせるまちづくり」を理念としています(写真2)。条例ができたことにより、有志の手弁当で行われていた活動に予算がつき、組織のあり方も明確になりました。現在はこの条例に沿い、関連機関・団体からなる審議会や、実務者で組織する専門部会が定期的に開催されています。また、専門部会で決定したプロジェクトを課題別に整理して取り組み、評価や周知・啓発を行う仕組みができています。「課題別プロジェクト」は図1に示した5つで、これらは2007年度に組織したWGのテーマを踏襲しています。
写真2◆「和泉市市民を中心とした医療と介護の連携推進条例」について紹介するリーフレット。条例の全文は和泉市ウェブサイトで読むことができる
条例全文が掲載されたURL
http://www.city.osaka-izumi.lg.jp/reiki/reiki_honbun/k221RG00000887.html
図1 条例に盛り込まれた「課題別プロジェクト」
・ 入退院支援
・ 在宅ケア多職種連携
・ 歯科口腔ケア
・ 服薬管理
・ リハビリテーション
○ 医師が介護を理解し重視し縦割りを乗り越えた
2015年度からはシンポジウムとフォーラムは一体化し、専門職と市民がともに集う場になっています。
写真3◆和泉市医師会役員と和泉市いきがい健康部高齢者介護室高齢支援担当/医療・介護連携グループの合同会議。事業開始当初から定期的に行われている
写真4◆和泉市との会議に医師会からは、会長、在宅医療担当理事、事務長などが出席
在宅医療に取り組む医療機関や訪問看護ステーションの情報は一覧表にまとめられていますが、ユニークなのはその情報収集の方法。医師会に所属する5名の在宅医療推進コーディネータ(※)が各個別訪問して、その機能や受け入れ体制などを調べています。在宅医療推進コーディネータは、もともと地域医療介護確保基金の事業として、国と大阪府が拠出して始められた事業ですが、これは3年間のサンセット事業と決められていました。その後の確保のための財源は、市の地域支援事業費の中に設けた特別枠。こうした財源も、条例のもと比較的潤沢に確保されています。在宅医療推進コーディネータが収集した情報は介護にも活かされます。在宅で生活する人、特に高齢者にとって医療と介護はどちらも不可欠であることを医師会の医師たちはよく理解しています。
基幹病院の部長医師を介護認定審査会のメンバーに
市と医師会は、急性期病院の医師に介護を意識させる仕掛けもつくりました。たとえば地域の基幹病院の部長クラスの医師を介護保険認定審査会のメンバーに加えることで、基幹病院の医師の意識改革がすすみました。その結果、介護認定の主治医意見書の充実と作成のスピードアップに成功しています。
POINT!関係者の目標の共有が活動推進の原動力
医療と介護の連携推進活動には一定の歴史を持つ和泉市ですが、やはり突出しているのは「連携推進条例」の存在です。この条例を制定するにあたっては、「活動を安定して継続するために」という立場や所属を超えた関係者の目標の共有が原動力になりました。条例には市民の意見も募集し反映。また、現在も在任中である市長が医療・介護問題に熱心であったことも大きな意味を持ちました。
関係機関の役割
医師会:在宅医療介護連携に関する多様な活動で長年リーダーシップをとっています。市:医師会と密に連携し活動を推進。連携条例のもと、財源確保も順調です。
保健所:2007年に和泉市にモデル事業への参加を呼びかけ、在宅医療介護連携推進のきっかけをつくりました。
その他の活動情報
●和泉市には現在病院も含めて117の医療機関があり、その内34医療機関が在宅医療に取り組んでいます。● 看取りに特化して代診を担う5名の在宅医グループが2017年6月に結成されています。
● 認知症関連の取り組みにも歴史があり、早くから「医師によるもの忘れ相談会」などを展開しています。
(文中用語説明)
※在宅医療推進コーディネータ:在宅医療を地域で拡充するための地区医師会の活動を支援する「大阪府在宅医療推進事業」の核となる人材。地区医師会がそれぞれ配置し、主に地域の医療資源や患者動向の把握、各種情報の収集・提供などを行う。
地域DATA(和泉市)
面積:84.98k㎡人口(2015年国勢調査):186,109人
高齢化率(2015年、65歳以上):22.90%
一般診療所数(2017年10月現在):117
病院数(2017年10月現在):14