CASE2 大阪府/貝塚市(詳細版)
きっかけは保健所からの提案精神科病院の協力で認知症の在宅支援もすすむ
貝塚市のここがすごい!
○元々の関係性を活かし「つげさん在宅ネット」を一気に立ち上げ
それぞれ問題意識を持っていた関係機関・団体が保健所の声かけに応じて2014年に一気に結集。懇話会を立ち上げ活発に活動
○精神科病院の協力のもと認知症の人の支援体制も充実
市内4つの精神科病院も在宅医療に協力的。短期の入院で認知症の人の症状悪化に対応
○ 元々の関係性を活かし「つげさん在宅ネット」を一気に立ち上げ
医療・介護連携のための基礎となる組織が最近までなかった貝塚市に、「貝塚市在宅医療・介護連携推進懇話会」が立ち上がったのは2014年9月のこと。きっかけは貝塚市医師会が受託した「在宅医療連携拠点支援事業」で、「これからの時代は地域の連携体制づくりが不可欠」と感じていた各種団体、関係機関が、大阪府岸和田保健所の呼びかけで結集しました(図1)。
つげさん在宅ネット
懇話会の呼称は、「つげさん在宅ネット」。貝塚市は日本最古の櫛産地といわれ、つげさんはこの櫛をイメージした貝塚市のキャラクターです。つけざん在宅ネットでは、取り組み内容などを検討する2カ月ごとの会議、テーマを絞ったワーキンググループ活動、年1回の研修会などを行っています。定例会議に医師が毎回6名前後参加するなど医療関係者は総じて協力的です。2016年4月より、事務局を貝塚市高齢介護課が務めています。
職種や立場を越えた対等な関係づくり
これまでに4回行った研修会は関係機関の持ち回りです。1回目の医師会に続いて歯科医師会、薬剤師会、訪問リハビリテーション提供機関(河崎病院)が担当。こうして対等な立場で運営にかかわることがフラットな関係づくりにつながっています。
図1◆つげさん在宅ネット参画メンバー
貝塚市医師会貝塚市歯科医師会貝塚市薬剤師会訪問看護ステーション協会訪問リハビリテーション提供機関(河崎病院)
市立貝塚病院(地域医療連携室)
青山病院(看護部門)
地域包括支援センター(浜手・中央・山手)
大阪介護支援専門員協会貝塚支部貝塚市(高齢介護課、健康推進課、障害福祉課)
大阪府岸和田保健所
写真2◆連携体制強化に向けてともに歩む貝塚市職員と医師会在宅医療担当理事
連携ツールの共有
つげさん在宅ネットの連携を円滑にしているツールに各種冊子があります。たとえば「貝塚市 医療・介護・福祉の情報ブック」(写真3)は2015年3月に完成。ここに掲載した医療・介護・福祉サービス事業所一覧は市民の生活単位に合わせて小学校区別になっています。また、医療機関、訪問看護・訪問リハビリテーション提供機関の情報では、各医療機関の設備、実施可能検査、在宅診療での対応状況などを表形式でわかりやすく掲載。たとえば医療機関の場合、往診の可否のほか、在宅酸素、麻薬処方、ターミナルケアなど18の項目について提供の有無を○×で明示しています(写真4)。
写真3◆「貝塚市 医療・介護・福祉の情報ブック」表紙。貝塚市医師会ウエブサイト(http://www.kaizuka-med.or.jp/tsugesan.pdf)で全ページが公開されている
写真4◆「貝塚市 医療・介護・福祉の情報ブック」では医療機関の機能をくわしく紹介している
○精神科病院の協力のもと認知症の人の支援体制も充実
在宅医療・介護連携の輪の中に精神科医療機関が入っていない地域もまだまだ多い中、貝塚市では市内4つの精神科病院の協力を得て、認知症の人の在宅生活を支える仕組みづくりも推進しています。たとえば症状の悪化した人を短期間、精神科で預かり、落ち着いたら在宅に復帰するといったことがスムーズに行われています。認知症初期集中支援チームも4つの精神科病院ごとに結成されています。精神科医が医師会活動に積極的にかかわっていることが対策の推進力になっています。
認知症ケアパスの運用
認知症の人の在宅生活を支えるツールとしては、「貝塚市認知症ケアパス」(写真5)を運用しています。これは、貝塚市内地域包括支援センター社会福祉士部会が原案をつくり、市内の精神科医の指導を受けながら議論を重ねて編集、最終的にはつげさん在宅ネットが監修して2016年2月に完成させました。認知症がどのように進行するのか、進行段階によって家族に求められる心構えがどう変わってくるのか、本人や家族の支援サービスにはどのようなものがあるのかなどを一覧表形式でわかりやすく示したうえで、後続のページでサービス内容や事業所の所在地を紹介しています。
写真5◆「貝塚市認知症ケアパス」表紙。誰にでもわかりやすい平易な言葉を用い、簡潔にまとめられている
市民啓発は予防とセットで
現在、貝塚市が医師会とともに力を入れているのは市民啓発ですが、終末期をイメージさせる言葉には抵抗を示す市民が多いというこれまでの経験から、在宅医療や介護、死生観にかかわることなどの市民向け啓発は、予防活動に組み込んでいます。たとえば「認知症予防のための運動」といったテーマで企画したイベントにおいても病気になったときのことや在宅医療についての説明を盛り込むようにしています。
POINT!既存の資源や規模を活かす
貝塚市は人口が9万人弱で、元々医療・介護関係者はお互いに“名前は聞いたことがある”“どこかで見たことがある”程度の距離感でした。ネットワーク立ち上げにはこの距離感が有効に働きました。また、認知症対策を推進できた背景には、市内に4つある精神科病院の精神科医の協力が得られたことが大きいといえます。
関係機関の役割
医師会:人口あたりの病床数が比較的多いこともあり在宅医療はそれほどさかんではありません。しかし、勤務先の規模や診療科にかかわらず医師は概ね医師会活動に積極的。つげさんネットの定例会議にも多くの会員が参加するなど在宅医療推進の土壌はあるといえます。
市:つげさんネット立ち上げ時から専門職と並んで活動。2016年4月からは同会の事務局としても機能しています。
保健所:2014年に貝塚市に在宅医療連携拠点事業への着手を呼びかけ、さまざまなアドバイスを行うなど、主に活動開始時に大きな役割を果たしました。
その他の活動情報
歯科医師会も訪問診療に積極的で、大阪府在宅歯科医療連携体制推進事業を活用し、急性期病院の入院患者の口腔ケアなども行っています。
地域DATA(貝塚市)
面積:43.93k㎡人口(2015年国勢調査):88,694人
高齢化率(2015年、65歳以上):24.90%
一般診療所数(2017年10月現在):52
病院数(2017年10月現在):9