CASE9 大分県/大分市(詳細版)


現場の活動を地道に積み上げ
「大分市全体をホスピスに」の目標実現へ 

大分市のここがすごい!

○退院を望む人がその日に家に帰れる仕組みがほぼできている

在宅緩和ケア専門クリニックを中心に、市内全域をカバーする在宅緩和ケアの多職種ネットワークが構築されている

在宅緩和ケアを牽引する先進的な事業所が複数存在

看護師ケアマネ中心の居宅介護支援事業所、在宅専従薬剤師を4名配置した薬局など特徴的な事業所が在宅緩和ケアを現場で推進 

○市と医師会の連携が進んでいる

大分市と大分市連合医師会は2013年から連携関係を継続している


 退院を望む人がその日に家に帰れる仕組みがほぼできている

大分市は大分県のほぼ中央に位置する人口約48万人の中核市。病院が豊富で、病気や障害には、たとえ治らない場合も施設医療で対応する文化が根強くあります。そこに一石を投じたのが、2009年に「大分市全体をホスピスに」の目標を掲げて開院した在宅緩和ケア専門クリニックです(写真1)。「自分の家で最期を迎えたい」という人々の思いに応え、開業以来ずっと、がん患者を中心に24時間365日体制で在宅医療に取り組んでいます。

がんの在宅看取り率が8年で2.5倍に

開業時は医師、看護師、事務2名の小規模でしたが、しだいに仲間が増え、連携のネットワークも広がって、在宅看取り数は開業年の47例から2016年には158例まで増えました。また、2015年に自宅で亡くなった大分市内のがん患者は139名でしたが、この数は2008年の約2.5倍。うち8割強の115名は上記在宅緩和ケア専門クリニックによる看取りです。 在宅医療専門診療所も8年で2カ所から7カ所に増え、病院一辺倒だった大分市内の終末期医療のあり方は、同クリニックの活動もあって急速に変化してきています。

写真1◆大分市内で在宅緩和ケアに取り組むクリニック


看護師が在宅療養をコーディネート

在宅看取りを実践するためにはさまざまな専門職との連携が不可欠で、現在までに28カ所の訪問看護ステーションをはじめ、居宅介護支援事業所約60カ所、薬局約15カ所など、市内全域の医療・介護事業所と連携しています。退院希望者の情報をクリニックに所属する在宅療養支援コーディネーター(病院での相談業務経験者など看護師3名)がキャッチしたら、すぐに患者宅近くの各種事業所で在宅チームを組み、即日在宅療養支援を行う体制をとっています。在宅ケアチームは医療介護専用クラウド、MCSMedical Care Station)を活用して情報共有し、一体感をもって活動しています(写真2)。

写真2◆在宅緩和ケア専門クリニックに集まった大分市職員、大分市連合医師会事務局職員、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャーなど関係者の皆さん



POINTいつでも入院できる環境がある

この在宅緩和ケア専門クリニックの院長はもともと外科医で、大分県立病院では約10年間、外科部長を務めていました。その後、緩和ケア医に転身し、緩和ケア専門病院院長を経て開業しました。勤務医時代の2000年から地域の医師や多職種とともに年2回、「大分県緩和ケア研究会」を続けており、多くの病院の勤務医とも顔の見える関係を築いています。こうした信頼関係のもとで、いつでも病院の協力が得られる環境にあることが患者本人や家族、関係者の安心感につながっています。


在宅緩和ケアを牽引する先進的な事業所が複数存在

連携ネットワークの中には先進的な事業所が複数あり、現場で活動しながら大分市の在宅緩和ケアを牽引しています。たとえばある薬局は、在宅緩和ケア専門クリニックの開業に合わせて2009年に無菌調剤室と在宅支援室を設置。いまでは在宅業務専従の薬剤師と事務員を各4名配置するなど在宅医療に力を入れています。また、36名の訪問看護師を擁し、さまざまな医療機関と連携して、施設での看取り、介護職の育成など多様なニーズに対応している機能強化型訪問看護ステーションもあります。

看取り期に活躍する看護師ケアマネ

2009年の開設以来、「いずれ医療と介護の連携が強く求められるようになる」と予測し、看護師ケアマネジャーの確保に努めている居宅介護支援事業所もあります。所属するケアマネ8名のうち6名が看護師(訪問看護経験者)という配置は全国的にもまれで、医師や訪問看護師とコミュニケーションをとりながら、終末期の患者にもスピーディーに対応しています。

POINT実践を通して医療職・介護職を育てる

大分市内には薬局が約200あり、うち半数に在宅医療の実績がありますが、医療用麻薬を常備しているのは約10店舗、末期がん患者宅への訪問を行っているのは4店舗程度です。訪問看護ステーションについては、2016年までの8年間で看取り数10名以上の事業所が15カ所、50名以上に絞ると5カ所、さらに100名以上に絞っても2カ所あります。これらのほとんどは在宅緩和ケア専門クリニックでの研修、訪問同行などにより力をつけてきました。同クリニックではいまでも、立場や職種を問わず研修生を受け入れて育てています。

  

市と医師会の連携が進んでいる

大分市に従来からある3医師会(大分市医師会・大分郡市医師会・大分東医師会)は、2010年に大分市連合医師会を発足し、行政との窓口の一本化を図りました。そして2013年から大分市と連携して在宅医療の整備事業を推進。各職種の作業部会、多職種連携会議、在宅医療資源マップ作成、病院関係者によるバックアップ体制整備などを進めてきました。さらに2016年度から、市の委託を受け「在宅医療・介護連携推進事業」を進めています。

地域10カ所で地元医師が市民向けに講演

市と医師会では市民啓発を重視し、これまでに市内10カ所の地域包括支援センターの圏域単位で、在宅医療に関する市民向け講演会を実施。それぞれの地元の医師が講師を勤め、高齢者を中心に3040名ずつの参加がありました。今後はさらに幅広い世代の市民に、「自宅で穏やかに最期を迎える」という選択肢があることを知ってもらうことが課題です。大分県では2015年から「大分県在宅医療推進フォーラム」を行っており(写真3)、市でも同様の事業を考えています。大分市と大分市連合医師会の連携に、在宅緩和ケア医が加わることが、活動をさらに前進させるカギになりそうです。

写真3◆「大分県在宅医療推進フォーラム」の冊子(2017年度版)



関係機関の役割

医師会:かかりつけ医の在宅医療を推進しているが、2017年実績で在宅医療を行った医療機関は382機関中100にとどまっており、さらなる展開を模索中。2016年度より「在宅医療・介護連携推進事業」を受託。
:2013年度から大分市連合医師会と連携し事業を推進。
:在宅緩和ケア専門クリニックへの委託のかたちで2015年から毎年「大分県在宅医療推進フォーラム」を開催するなど啓発事業に力を入れている。

その他の活動情報

●大分市介護支援専門員協会は、医師、看護師との連携推進のため意見交換の会をスタート。2018年1月の第1回には、医師、訪問看護師、ケアマネジャーが各20名参加。
●市は食品会社や民生委員の協力を受け、地域ごとに独居世帯をすべて把握。
●多職種参加型の「大分在宅緩和ケアセミナー」を2018年6月にスタート。

地域DATA(大分市)

面積:502.39k㎡
人口(2015年国勢調査):478,146人
高齢化率(2015年、65歳以上):24.70%
一般診療所数(2017年10月現在):347
病院数(2017年10月現在):53

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