CASE5 大阪府/東大阪市(詳細版)



1市3医師会がバランス良く協調
各種事業を活用しながら一緒に地域づくりを推進



東大阪市のここがすごい!


○1市3医師会が信頼関係を築きともに活動

市内の河内医師会、布施医師会、枚岡医師会はそれぞれの地域に根ざした活動をする一方、「東大阪市三医師会」として団結し市とともに活動している

市長が医療・介護を理解し積極的に予算を組み事業を推進している

市長が医療・介護の重要性を理解し事業を進めている

○職種間の垣根なく意見交換できる関係性ができている

会議などでは職種や職位に関係なくフランクに意見を言い合っている



1市3医師会が信頼関係を築きともに活動

東大阪市は1967年、中央の旧河内市、西の旧布施市、東の旧枚岡市の合併によって誕生しました。このとき各市にあった医師会は統合されず、市内には今も3つの医師会が存在しています。いわゆる平成の大合併もあり、一つの市に複数の医師会という地域は全国に多数ありますが、東大阪市が特徴的なのは、“1市3医師会”という複雑な状況にありながら、3つの医師会が要所要所で団結し、「東大阪市三医師会(以下、三医師会)」として東大阪市とともに地域づくりを進めるなど、上手に協調しているところです。

東大阪市と三医師会の信頼関係

もし3つの医師会がバラバラのままだったら、市との連携は難しかったかもしれません。三医師会として1つに集約されたことで話し合いが進めやすくなりました。2018年度から始まった「在宅医療・介護連携推進事業」についても、東大阪市は三医師会に全面的に委託。顔の見える関係を築き、歩調を合わせて地域づくりに取り組んでいます(写真1)


写真1◆2018年2月に行われた「三医師会在宅医療・介護連携事業事前会議」の様子。三医師会の会長、副会長、担当理事、在宅医療推進コーディネータ、東大阪市健康部部長、地域包括ケア推進課課長、同総括主幹が一同に会した



POINT健康部、福祉部双方を巻き込む

三医師会として活動を始めた頃、東大阪市と各種調整を行う際に医師会側がよく悩んだのは、その取り組みが健康部と福祉部、どちらの担当かという判断でした。結局、会長3名で相談し、なるべく双方に声をかけることで協力関係をつくってきました。医師会と福祉部とのつながりは健康部ほど強くありませんでしたが、介護保険認定審査の対象人数を増やしてほしいと福祉部から医師会に依頼されたときに、医師会が会員の意見を調整して快く受け入れるなど柔軟な対応をすることで信頼関係を深めてきました。現在は、2015年度に福祉部に発足した地域包括ケア推進課が医師会との主な連携窓口となっています。


医師会の結束を大阪府の担当者が後押し

三医師会としての活動が始まったきっかけは、「大阪府転退院調整・在宅医療円滑化ネットワーク事業(2012年〜)」(※1)でした。このとき大阪府の担当者から、「それぞれが同じ事業に取り組むなら、3つの医師会で一緒にやってみたらどうか」と勧められ、当時の3人の医師会長が同調したことで一致団結したのです。以後は個別の活動を尊重しつつ、協力関係をとても大事にしています。たとえば「大阪府在宅医療推進事業」(※2)などにも情報交換しながら個々に取り組み、それぞれ成果を上げています(写真2)


写真2◆情報交換やさまざまな話し合いのため頻繁に顔を合わせるという(左から)枚岡医師会会長、河内医師会会長、布施医師会会長


それぞれの強みを活かす

3つの医師会にはそれぞれ得意分野あります。河内が在宅医療全般、布施が認知症対策、枚岡が在宅緩和ケアです。河内医師会は長年蓄積したノウハウを『在宅医療マニュアル』(写真3にまとめ関係者と共有しています。布施医師会は、地域に2つの精神科病院を擁していることもあり、特に認知症対策が進んでいます。枚岡医師会には在宅緩和ケアに長年にわたり熱心に取り組んできた開業医がいるほか、2005年に発足した「枚岡在宅緩和ケア研究会」があり、地域に緩和ケアが浸透しています。三医師会ではこうした得意分野を共有して全体の底上げを図るほか、市と共催する市民啓発活動などにも活かしています。

写真3◆河内医師会会員や河内地区の訪問看護師などが執筆、独自の連携ツールなども盛り込んだA4判60ページの『在宅医療マニュアル』(一般社団法人河内医師会/河内医師会在宅医療コーディネータ運営委員会、2015年8月発行)


写真4◆三医師会と市が一体となった取り組みも多い。2017年度の市民健康シンポジウムは河内医師会主催、布施医師会・枚岡医師会共催、東大阪市などの後援により開催した。写真は同シンポジウムのパンフレット


○市長が医療・介護を理解し積極的に予算を組み事業を推進している

このように東大阪市と三医師会が協調して事業を進めやすい背景には、首長である市長が、この分野に関してよく理解し重視している、ということがあります。現市長は東大阪市議会議員(5期)などを経て2007年に市長に就任。当初から基本政策の1つとして「人に優しいまちづくり」を掲げ、地域の支え合い体制づくりなど具体的施策を進めています。地区医師会の会長たちとも直接交流があり、医療政策にも熱心。2018年から在宅医療・介護連携推進事業が市の事業に移行する際には、事前に事業の受託機関である三医師会と協議したうえで予算編成に取り組みました。前述した市民健康シンポジウムなどにも足を運び、市民啓発にも一役買っています。

職種間の垣根なく意見交換できる関係性ができている

市内の医療・介護関係者は必要に応じて集まり、意見交換を行います。その会議の雰囲気はとてもフランク。医師会長が自分の見解を述べたうえで在宅医療推進コーディネータに意見を求めたり、それに対してコーディネータが自分の意見をはっきり伝えたり、といったやりとりが自然に展開されています。これは大阪府民のフレンドリーな気質ともおおいに関係しているようです。


関係機関の役割

医師会:一致団結した「東大阪市三医師会」として市の事業を受託。あらゆる職種と連携し、市と協調して地域づくりを進めています。
:市長のリーダーシップもあり、健康部、福祉部(特に地域包括ケア推進課)ともに在宅医療・介護連携推進事業に参画しています。

その他の活動情報

●枚岡医師会では枚岡在宅緩和ケア研究会と共催で「緩和ケアフォーラムin枚岡」を開催。
●多職種連携研修会を三医師会合同で実施。参加者は第1回(2013年)の60名から現在は約250名まで増加。
●おおよそ中学校区に1つの割合で19カ所整備されていた地域包括支援センターは、2016年度より22カ所に拡充。
●三医師会では大阪府在宅医療推進事業の一環である訪問診療導入研修(同行訪問研修)などを活用し、在宅医療に取り組む医師を育成中。
● 2017年7月、東大阪市オレンジチーム(認知症初期集中支援チーム)が始動。

(文中用語説明)

※1大阪府転退院調整・在宅医療円滑化ネットワーク事業:平成5-7年度高槻市医師会 平成8-10年富田林医師会でモデル的に試行された事業が平成11年度から16医師会で展開されることとなり、平成19年度に在宅医療推進事業に統合されるまで発展し続けた。
※2大阪府在宅医療推進事業:在宅医療を地域で拡充するための地区医師会の活動を支援。地区医師会に在宅医療推進コーディネータを配置し、同コーディネータを中心に地域の医療資源や患者動向の把握、各種情報の収集・提供を行うことが主。地域医療介護総合確保基金を活用した事業のひとつとして平成14年度に開始された。

地域DATA(東大阪市)

面積:61.78k㎡
人口(2015年国勢調査):502,784人
高齢化率(2015年、65歳以上):27.70%
一般診療所数(2017年10月現在):394
病院数(2017年10月現在):23

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